【NNAカンパサール特集・製造業の未来】インドで金型の「寺子屋」──事業革新パートナーズ

アジアの経済情報をお届けするNNAが発行するフリーペーパー。「 NNAカンパサール」
「沸騰するアジアの今を伝える」をテーマに、アジア各国の製造現場、大きな変貌を遂げようとしている消費市場など、アジア全体の産業の現状を日系企業関係者必読の情報を織り込んでお届けしています。

こちらのカンパサールに掲載された中からjobwire編集室が気になる記事をピックアップしてお届けします。


インドの日系企業が設置する工場で金型の「寺子屋」事業を始めるのは、企業の海外進出を支援する事業革新パートナーズ(東京都中央区、BIPC)だ。日本金型工業会国際委員でもある同社。人材育成に5年、10年を必要とする金型業界が、人材がすぐに辞めることを理由になかなか海外進出できていない状況を打破したいとの思いがあった。

■一から教える

具体的には、同社の顧客である金型メーカーがインドに工場を設ける際、地場の人材を工場に招き金型製作やメンテナンス方法を一から教える。BIPCの茄子川仁社長によると、企業にとってはインターンを受け入れる「寺子屋」に近いイメージという。

TAGMAの金型技術学校の完成予想図(BIPC提供)

「インドに工場を設ける金型メーカーは、自社のインド人技術者に何を伝えるべきか分かっている。だが、金型を買ってくれる顧客企業の金型メンテナンス部門のスタッフに自社のノウハウを教えるという発想はなかった。教えることにより授業料が得られるのはもちろんだが、何よりも自社の金型の良さをより深く知ってもらうことができる」と茄子川社長。既存顧客や潜在顧客へのPR効果が大きいと説明する。

日本の大手金型メーカー3~4社が寺子屋事業を始める計画で、第1号は今秋スタートするという。授業料は1人当たり年間数十万円、その人材の給料相当になる見込みだが、インド政府やインド金型工業会(TAGMA)などから補助金を得て、半額程度に軽減する。TAGMAの会員企業100社程度から人材を受け入れるとみている。

■数百の学校必要

インド政府は製造業振興策「メーク・イン・インディア(インドでつくろう)」などを掲げ、輸入への依存度を減らそうとしている。この流れを受けてTAGMAはインド政府と共同出資し、西部マハラシュトラ州プネで11月に金型技術学校(トレーニングセンター)を立ち上げる予定。現在、ここに日本企業も出資した上でマニュアルを作成し、講師も派遣できるよう働きかけているところだ。

ちゃんとした講師がいる金型メーカーということが分かれば、インドで知名度が上がるうえ、長い目で見れば、日本の金型作りをインドに根付かせることもできる。すでに今回寺子屋をやる日系企業は賛同しているという。

茄子川社長は「金型産業が勢いよく伸びていることからインドに着目した」と説明する。同国金型産業の年産高は現在約5,000億円だが、数年後に8,000億円規模に膨らむという。この成長分をカバーする人材を育成するには、インド全土で数百カ所の金型技術学校が必要とされる。

もちろん、日本メーカーの金型ではなく、すぐに精度が落ちるが安価な輸入品を使えばいいと考えるインド企業もある。一方、自動車業界で圧倒的シェアを持つマルチスズキのサプライチェーンに食い込みたいなら、日本水準の金型技術を持つ方が有利と考えるメーカーもある。そういうところに対し、寺子屋のように目の前で一から教えることは大きな魅力となるだろう。

<グローバル人材、大学寄付講座で育成>吉野家は日本でインターンシップ

企業が学生を対象に寄付講座やインターンシップ、研修を行うことも人材を育成する方法の一つ。日本政府の支援を受け、アジアで4万人の産業人材を育てることを目標とする事業が進んでいる。その一つとして、吉野家ホールディングスはタイの名門大学の学生を「今後ますます必要とされるグローバル人材」と位置付けてバンコクで寄付講座を実施し、その後インターン生として日本に招いて店舗実習などを行った。

店舗実習中のヨーさん

いらっしゃいませ! 2017年7月、東京の吉野家両国店でタイ・タマサート大学日本語学科3年生のパー・クワン(ヨー)さん、パー・ワディ(ジジ)さんの声が響いた。タイで研修を重ね、いよいよ日本で3週間のインターンシップ。2人の明るい表情はこれまでに大きな収穫があったことを物語っている。

■4万人育成へ

安倍晋三首相は15年にマレーシアで開かれた「東南アジア諸国連合(ASEAN)ビジネス投資サミット」で、アジアで4万人の人材を育成する構想を発表。これを受け経済産業省はASEANでの産業人材育成支援を目的に、日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)に25億円を拠出した。

吉野家ホールディングス本社でインターンシップの成果を発表したタマサート大の6人

AMEICC事務局はこれを活用し、(1)大学寄付講座事業(2)インフラビジネス獲得支援人材育成事業(3)ASEAN進出日系企業を通じた産業人材育成事業─を実施。吉野家ホールディングスとアジアヨシノヤインターナショナルが(1)の実施企業の一社となり、ヨーさん、ジジさんをはじめとするタマサート大の学生20人余りを対象に講座を設けた。その中から6人を選抜し日本でのインターンシップを行ったのだ。

吉野家ホールディングス・グループ管理本部グローバル人材採用戦略室の長広尚之室長は「これからASEANでの出店が増えていく中、グローバル人材はますます必要になるとの考えから、今回の寄付講座に応募した」と説明する。タイの優秀な人材に自社だけでなく、広く日系企業で活躍してほしいとの思いがある。

AMEICC事務局を支援する海外産業人材育成協会(AOTS)によると、大学寄付講座は学生の現地日系企業への就職を促進することが目的。新卒人材に求められる知識や能力などに基づき、ASEAN各国の大学などに設置される。

■大きな糧

タマサート大の6人は店舗実習により客が満足するサービスを学び、農業実習や工場見学により安心・安全な食材作りに取り組む姿勢を目の当たりにした。キッチンカー(移動販売車)実習も行ったヨーさんは「店員が2人しかいないので、注文が集中しても滞りなくサービスを提供できるよう、在庫の量や段取りを考える必要がある」と体験を語る。インターンシップ生のほとんどが将来は日系企業で働くことを希望しており、今回の研修は大きな糧となったはずだ。

■「この企業で働きたい」

寄付講座はタイ、ミャンマー、ラオス、ベトナム、インドネシアなど延べ20以上の大学で実施している。◇日本から来た講師による日本の最新トピックの講義◇その知識をベースにした現地や日本でのインターンシップ◇ジョブフェア(企業就職説明会)——─の3つをセットとする。これらを通じて「この企業で働いてみたい」と思わせるきっかけをつくることを狙う。関係者は、今年後半以降に講座を受けた学生たちが卒業する際、日系企業が現地の優秀な人材を採用することにつなげたいとする。これまでに培ったノウハウ、企業~大学のネットワークを生かせるようにしたいところだ。

主な大学寄付講座事業

上表(一部抜粋)のように各国で講座は始まっている。種はまかれ、収穫に向けた関係企業などの努力は続く。

※特集「NNAカンパサール特集・製造業の未来」は、アジア経済を観るNNAの新媒体「NNAカンパサール」2017年10月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。

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